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2005-11-25

座長著書と座長案の明確な矛盾

杉浦座長の著書「電磁妨害波の基本と対策」(清水康敬・杉浦 行 編著 (社)電子情報通信学会 ISBN4-88552-132-7 C3055 )の第8章には機器・設備が発生する電磁妨害波の許容値設定に関する考え方として下記の記述がある。

8.2.1 妨害波許容値
(1) 許容値の根拠
機器・設備の電磁妨害波の許容値は,通信・放送システムに障害を及ぼさないように定められている。その際,妨害波の波形,スペクトル,伝搬特性,および被害を受ける通信・放送システムに感受性を考慮する。すなわち,以下のようにして,妨害波の許容値を定める。
? 受信障害を防ぐには,受信アンテナに混入する妨害波の強度Eu (dBμV/m)が,希望信号波の電界強度 Es (dBμV/m)より混信保護比 P(dB)だけ低くなければならない。従って,受信アンテナに加わる妨害波の強度は,次式の値にすべきである。
Eu = Es - P (dBμV/m)

<中略>
(3) 許容値の例
 パーソナルコンピュータなどの情報技術装置の妨害波に関する許容値を,図8.4に示す。30MHz以下の周波数では,妨害波は主に機器が接続されている電源線を通じて伝搬するため,その端子電圧に関して許容値が定められている。一方,それより高い周波数では,妨害波は機器から直接空間に放射されるため,一定距離における電界強度で許容値が規定されている。

この著書を参照すると,パブコメ案における許容値の定め方には本質的な問題があることが分かる。

パブコメ案8.1.3章では「PLC機器の妨害波の許容レベルは周囲雑音強度の代表値に等しいとする」とある。そもそもこの考え方は,上記著書にあるようなEMCの考え方と矛盾するし,無線業務を保護するための関連するITU-R勧告の内容とも矛盾する。背景雑音は,2-30MHz内で10dBも変化するため,代表値一つで許容値を定めることなど不可能である。

PLC研究会議事録等によると杉浦座長は「コンピュータからの雑音と同じレベルであれば誰も文句はない」という趣旨の発言をしているが,杉浦氏自身の著書には「30MHz以下の周波数では,妨害波は主に機器が接続されている電源線を通じて伝搬するため,その端子電圧に関して許容値が定められている」とある。しかしながら,PLCの場合は電源線自身が大きな放射源となっているという事実を忘れて,30MHz以下だからコンピュータからの雑音と同じならいいだろうといった短絡的な考えを前面に出している。これは明らかな間違いである。電力線は長さ方向の分布をしているのであり,(多少の広がりはあるものの)基本的には点源と見なせるコンピュータからの雑音と同等に扱えない。PLC機器が接続された電力線全てが妨害波源となるのである。

杉浦座長の著書「電磁妨害波の基本と対策」(清水康敬・杉浦 行 編著 (社)電子情報通信学会)の第8.3.3章には放射妨害波の測定法に関する考え方として下記の記述がある。

8.3.3 放射妨害波の測定法
(1) 磁界強度
 周波数30MHz以下では,機器から水平方向に放射される電磁波の水平偏波磁界成分の最大強度を測定する。すなわち,十分広い屋外の測定場において,被測定機器を絶縁材回転台の上に乗せ,それより10mまたは30m離れた位置にループアンテナを設置し,これに妨害波測定器を接続する。ループ面を垂直にし,機器およびアンテナを回転しながら受信電圧の最大値を求める。

明らかにパブコメ案に記載されたPLCからの妨害波測定回路構成は,座長自身の著書における測定法と矛盾する。測定するならば,パブコメ案53ページ 7.3.4に準じた測定方法を規定しなければならない。

posted at 01:05:05 on 2005-11-25 by ohishi -

コメント

jr9mfk さんによるコメント

資料4-4では、補正項はあるものの「Eu = Es - P (dBμV/m)」という座長著書の考え方はまだ残っていました。

http://www.soumu.go.jp/joho...

ところが、Es(資料4-4ではFs)に短波放送より20?40dB高い中波放送の値を使っていたのが間違いの始まり。この20?40dBの差異をごまかして、結論だけ資料4-4と同じCISPR22の通信ポート許容値に落とし込んたものだから、そこに至る論理はめちゃくちゃ。

もともと、中波放送の電界強度を短波帯にも適用したCISPR22の許容値の導出方法自体おかしく、ごまかさないことにはCISPR22の見直しを迫られますからこうせざるを得なかったのでしょう。ただ、通信ポートが接続されるのが特性の良い電話線やLANケーブルでは問題が顕在化しなくても、平衡度が悪くディファレンシャルモードインピーダンスがまちまちで整合させにくい電灯線に通信ポートが接続されるPLCにまで同じ許容値を適用すれば問題が起きるのは当たり前。「CISPR22の許容値」から離れて根本的に見直さない限り、まともな許容値が得られるはずはありません。
2005-11-25 23:23:20

ohishi さんによるコメント

PLC-Jの狂気が座長にも感染したとしか思えないですね。結構な数の方が,座長案はEMCの考えに反するとの意見を提出しているようです。座長が強行突破しようにも,自らが播いた矛盾の種をどう刈り取るか,もうどうしようもない状態に陥っているでしょう。
潔く座長案を撤回するという勇気があれば彼も良い人生を送れるでしょうが,強引にやればある意味歴史に名を残す「御用学者」となる。
2005-11-26 09:00:36
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