住友電工の『SEIテクニカルレビュー』
第168号(2006.3)に掲載された論文「高速200MbpsPLC 機器の開発と海外への適用」の「5. 国内への展開」に、「PLC-J では、屋内での使用に対する規制緩和を目指し、当社もその会員として漏洩電界低減技術の開発と実証試験に取り組み、高速PLC システムが他無線システムと共存可能レベル(微弱無線レベル以下)であることを実証した」とあるのを読んで、この会社はまだわかっていないのかと思った。わかっているけど知らない振りをしているのかと思ってきたが、昨年の研究会で「微弱無線レベル」が否定されてもなおこんなことを言い続けるのは相当恥ずかしい。
東電はかつて、「10m地点換算値で44dBμV/m以下(3m地点換算値で54dBμV/m以下)」という実験結果を示した(
2004-11-04既報)。PLC-Jは昨年第1回の研究会で、漏えい電界レベルを「微弱無線局の許容値以下」とする開発目標を置いてきたと説明し(
資料1-3(pdf)6ページ)、「漏えい電界の最大値は、屋外3m地点で42dBμV/m、10m地点で32dBμV/mである」(同21ページ)などとする実験結果を示した。
しかし、この実験結果は微弱無線局の許容値を満たしていないとみられる。
確かに、322MHz以下の微弱無線局の許容値は、
電波法施行規則第6条第1項第1号で、無線設備から3mの距離において、その電界強度が500μV/m(約54dBμV/m)以下と規定されている。しかし、同条第2項には「前項第一号の電界強度の測定方法については、別に告示する」とあり、その告示を要約すると、150kHz?30MHzにおいては次の手順となる(参考:
微弱電波機器性能証明の手引き(pdf))。
1) 最大放射方向の電界強度を求める。
2) その状態でスペアナの分解能帯域幅(RBW)10kHz及び100kHzで測定する。
3) RBW10kHzのときと100kHzのときの測定値の差が3dB以下の場合は1)を電界強度とするが、3dBを超えるときはスペアナの表示値が変化しなくなるまでRBWを広げて測定した値をもって電界強度とする。
資料1-3の21ページには、「RBW=VBW=10kHz」と示されている。しかし、高速PLCのように使用周波数帯が広い場合、RBWを相当広げないと「表示値が変化しなくなる」という状況にはなるまい。告示の規定どおりRBWを広げて測定すれば、PLC-Jの示した数字より20dB程度高い値となることが十分想定される。
電力線搬送通信設備に関する研究会ヒアリングワーキンググループ(第3回;平14.5.23)でJAIAは、同告示を引用し、PLCの電界強度が微弱無線局と異なる前提で測定されるのはおかしい旨指摘した(
電力線搬送通信設備に関する研究会のヒアリング資料(pdf))。高速PLC検討の迷走は、PLC-Jがそのような指摘を無視し、誤った認識に基づき開発目標を設定したことが原因ではなかったか。
CISPR頼みだったPLC-Jが,CISPRの考え方も,ITU-Rの考え方も,国内電波法関連規定の考え方も何も理解せずに「素人判断」していたことが判明した日であった。
論文にも目を通しましたが,英語が酷いね。